1kgの石から100mの刃が作れるようになる @ 明治大学博物館

今回は、考古部門の石器展示に目を奪われました。驚きの展示説明が2つ連続したからです。

1つは、石器時代の遺跡に残された「石器の原石」、「完成した石器」「石器を作る際に残った石屑」の数の相対的なバランスからその遺跡の特徴を導き出せるという説明です。
基準として、上記3つの数を 1,000:100:10,000 で正規化したとき、石器の原料となる黒曜石の山地(長野)と、それを手に入れて消費していた地域(東京)では、バランスが違うのだそうです。たしかにその3つの数字のバランスにその土地が黒曜石流通ネットワークの中のどういう種類のノードになるかがあらわされてもおかしくないですよね。
ただ、実際に数を数えていくには膨大な作業が必要なはずです。その原データを複数遺跡で比較すると、その時代の面的な情報が浮かび上がってくるというのがなにか魔法のようです。

もうひとつは、石器時代の中にさらにいくつかの時代区分をもうけ、各時代の「1kgの石からどれだけの刃(切れ味のいい破断面)が何m作られたか」というグラフです。数十cmだった石器時代初期には、石の産地では適当に石を割って利用し、刃がなまったら使い捨てて次の石を探していたのでしょう。それがグラフの最後の細石器の時代では100mに達しているのです。
細かな細工がなされていたという工学的な面と同時に、石器の材料となる石が流通するようになると、kgで測定できる運搬の負荷に対して、m(メートル)で計ることができる刃の長さという効用を増やしたいというモチベーションも大きくなるのが自然です。それがまた流通を刺激していい材料の交換価値があがったのでしょう。

おそらくいままで何十回も石器展示を見てきましたが、多種多様な石器の種類を眺めるだけで、そこからは今回のようなメッセージを受け取っていませんでした。
さすが大学の博物館ということかもしれませんが、このような分析を提示してもらえると、他の分野でも応用できそうな気分にさせてくれます。

ここは、商品、刑事、考古の3部門あり、博物館のガイド本等で焦点があたるのは「ニュルンベルクの鉄の処女」(拷問道具)がある刑事部門である場合が多いですが、他の2部門も企画展も質の高さを感じさせてくれました。時間をとって再訪したいと思わせてくれました。しかも無料です。ボランティアの説明員の方のお話も心地よく感じました。