【報告】リニュアルした登呂博物館の見学会 登呂博物館(静岡市)

Photo5s  他の参加者との雑談の中で、弥生時代の代表的な遺跡としては最近の教科書では登呂にかわって吉野ヶ里遺跡が選ばれていることを知り驚いた。かつては、学校で日本の歴史の授業が始まると、新学期早々覚えるべき知識としてでてくるのが「登呂遺跡」だったはずである。新発見の積み重ねによって勉強する内容も更新されてくるのは当然であるが、世代間の共通認識は少しずつずれていくことを改めて思い出す。

 10時30分、館の西側入り口に集合していた十数名の参加者が、1階の「登呂交流ホール」に誘導され席についた。見学会を企画した方のあいさつのあと、館のスタッフから館についての基本的な説明がなされた。

 まず、館長の山本多美子氏が、静岡市の博物館経営や学芸員の採用の現状に関して話された。静岡市の博物館の中で、市立美術館や静岡市科学館などは指定管理者制度によって運営されているが、登呂博物館は市の直営の博物館として教育委員会が管理している。一方、登呂博物館周辺の一帯は静岡市のいくつかの部署が別々に管理責任を持っており、隣接する登呂遺跡は市の文化財課が、公園・駐車場は観光協会が管理しており、また館の建物の中の1階の無料スペースは、まちづくり交付金事業で運営されている。1階の出入り口ではセンサーで入館者数を計測しており、開館以来の最大値は1日約4千人だった。そして、2階の有料スペースまで利用するのは入館者の2-3割という比率である。

Photo0s  次に、学芸員の長谷川秀厚氏が登呂博物館の施設の概要と歴史を話された。個人的には、今回の見学会では「博物館と市民の接点」に注目することを考えていたので、配布された資料の館内の構成についての面積の資料に目が留まった。総延床面積約2,300平米に対して、展示のスペースは約620平米で約27%である。教育普及・交流に使われる約390平米の約17%と合わせると、市民が直接観覧できるスペースは44%となる。当然のことながら、バックヤードには資料の収蔵・保管、研究、管理・運営にスペースが必要になる。登呂博物館のパンフレットでは館名の上に「参加体験ミュージアム!」が冠されており、説明の後の見学でその質と量を感じることができたが、建物の内部の構成もそれを支える基盤の一つであろう。今後、他の館の資料と比較してみたいと考えている。

 説明の後の質疑では、ホールに掲示されていたたくさんのデザインが話題の一つになった。近隣の美術系の大学との共同の取り組みの中で、大学生が登呂博物館のマークやロゴを試作したとのことである。教育プログラムの一環ということではあったが、どれも魅力的なデザインだったため、参加者からは、実際に実用に供するデザインのコンテスト等につながることを期待するコメントもあった。考古学を専門とする博物館と、美術系大学という組織との接点、大学生との接点の可能性を感じさせてくれた。

Photo2s  この後、階段で2階に上って、常設展示室と「うつわ展 -古代の器たち-」が開催されていた特別・企画展示室を見学し、1階に降りて、80%の縮尺で建物が再現された弥生体験展示室、図書コーナーを見学し、ミュージアムショップンの紹介を受けた後、予定通り12時半頃に現地解散となった。

   

 

 登呂博物館は、全日本博物館学会の「学会ニュース No.94」の新館紹介で、平成22年10月3日のリニュアルオープンの経緯や各フロアの内容の説明が行われている。私には考古学関連の専門的な知識がなく、博物館の核である展示や参加体験プログラムについての紹介は既に様々な形で行われていると考え、このレポートではそれ以外の点に目を向けて「博物館と市民の接点」に注目して紹介していきたい。

 

■館内で目にした様々な接点

・エントランスの設計

 「出入り口が1か所の考古学系の博物館」の場合、強い目的意識を持っていない市民の場合はなかなか足を踏み入れづらいのではないかと思う。この館では1階に東西の出入り口を結ぶ幅の広い通路があり、北側に無料の弥生体験展示室、図書コーナーが、南側にミュージアムショップ、情報コーナー、交流ホールが配置されている。公園内に遊びに来た市民が気軽に通り抜けることができる開放的な設計である。

  

・発掘に参加した市民のインタビュー

 常設展示室の順路の最後のコーナーでは、発掘時に協力した市民が数十年を経て当時の状況を語る様子をインタビューしたビデオで見ることができる。自ら携わった経験を後の世代に残す仕掛けであり、時を超えた接点を作り出している。発掘風景の写真や模型が示す過去と現在を結ぶ接点になっている。

 

Photo1s ・収蔵庫ののぞき窓

 資料の収蔵は博物館の重要な機能の一つであるが、その機能の存在すら市民の目にはなかなか入らない。この館では2階の通路でガラス窓越しに収蔵室をのぞきこめるようになっている。収蔵や研究といった機能の存在を自然に感じることができる接点を提供している。

  

  

 

・市民の作品の展示

 弥生体験展示室の入り口の棚には、市民が体験プログラムで作成した道具類が展示されている。市民が博物館を身近なもととして継続的に感じ続ける接点になるかもしれない。

 

Photo4s ・古代米で作られた登呂式おむすび

 ミュージアムショップで販売されているおむすびを購入し、外に出てベンチで遺跡群を眺めながらほおばった。目に食感も組み合わせた体験も新しい接点になるだろう。

   

  

  

  

 

Photo3s ・屋上からの風景

 博物館の屋上からは、復元された竪穴式住居や水田を周囲の住宅と見比べながら観察することができる。実物同士の比較はその大きさや形の理解がしやすい。また、弥生の人たちも見たであろう富士山を望む風景は古代を追体験させてくれる。周囲の地形の高低等を実際に確認することで、展示室の模型で鳥瞰した知識がまさに立体的になってくる。

   

  

■周辺との接点

登呂_地図_110420s ・JR静岡駅から歩いて約40分

 当日朝は、研究会開始に間に合うように十分余裕をみて静岡駅に到着し、土地勘を得るために静岡駅南口から博物館まで約3kmの道を歩いてみた。駅と遺跡を結ぶ石田街道は、一般的な市街の道でこの先の遺跡と関連があるようなものは特に見当たらなかった。道の半分ほどは歩道の整備中であったが概ね問題なく遺跡に到着。復元された古代の建物ごしに博物館があらわれた復路はバスを使った。昼間は20分に1本のペースでつながっており、地元の者であれば十分利便性は高そうだ。ただし、他の地域から来た者にはバスの便はわかりづらいことがある。事前に館のホームページからのリンクをたどりバス会社のサイトで時間・料金を確認することが可能だった。

  

・周辺の博物館との関係

 すぐ隣には静岡市立の芹沢銈介美術館があり、帰りに立ち寄った。工芸の領域に関して勉強もでき十分満足できる経験になった。せっかく隣接していながら、登呂博物館内のポスターやチラシ、公園内の案内等では積極的な説明・誘導はされておらず、事前知識のない私には外見だけではどんな博物館か理解するのが難しく入館して初めて内容が理解できた。

 また、静岡駅近くの静岡科学館“る・く・る”と静岡市美術館も訪れ、多くの観覧客に混じって見学をしてきたが、館内の掲示物等は同じ領域の他館の紹介が中心で、近隣にあっても対象領域の違う館への相互の誘導はほとんどなされていないように感じた。この点は、これまで他の都市でも経験したことである。

 個々の市民の関心の対象は特定の領域(例えば、考古学・美術・科学、等)に集中しているとは思うが、新たな関心を喚起するための接点に関しても何かしら工夫ができないかと感じる。この点については、今後も関心をもって観察していきたい。

  

<<見学会概要>>

■日時:2011年1月22日(土) 10:30~12:30

■主催:全日本博物館学会 (第4回研究会 新しい静岡市立登呂博物館の見学会)

■会場:静岡市立登呂博物館

■内容:
 日本を代表する遺跡の一つである登呂遺跡の博物館が、2010年10月にリニューアルオープンしました。体験型の新しい博物館として生まれ変わった登呂博物館の見学会が、全日本博物館学会の2010年度第4回研究会として実施されました。

  

(2011/1/22 見学、2011/6/23 学会ニュースへの報告に加筆・修正)

 

博物館心 ミュージアムマインド「登呂博物館」へ