企業の「家族主義」は、博物館の保存対象なのかもしれません  出光美術館(門司)に併設された出光史料館

Idemitsu01  福岡で生まれ、この地(門司)で起業した出光の創業者・出光佐三氏の足跡をたどります。日清・日露・2度の世界大戦を同時代で経験した人生では、戦争というものはいつでも簡単に切り替わりうる当たり前のモードだったのかもしれません。

 
「タンク底油集積事業」の展示は、出光の「家族主義」の表象です。第2次大戦後、物資が払底する中で、旧海軍のタンクの底に残っていた油を人力で回収するという難事業を受注したときの話です。戦後、海外の事業資産の全てを失ってしまった中で、復員者を合わせて千人近くの社員を一人も解雇しなかったそうです。そのために、こういう効率の悪い仕事もあえて引き受けたのですね。

  もちろん、世の中一般では人員整理の嵐がふいていた時代のことです。当事者の解説・展示であり、客観的とは限らない可能性を踏まえつつも、タンク底で油まみれになっている社員たちの表情は、確かにやわらかい印象でした。

 

  それ以外のコーナーでも、写真に写る佐三氏の姿はいつも背筋がしゃきっと伸びています。大きな出来事の繰り返しの中で文字通り、信念に忠実に、筋を通して判断していたように受け取れます。 

 ここ20年続く不況の中で、リストラは当たり前のものとなって、それで業績を回復させた経営者がもてはやされる時代になりました。「家族主義経営」は、既に化石化して博物館の題材になりましたが、だからこそ際立つのでしょう。対極にある経営者たちは、はたして自分の記念館にどんな解説を残すのでしょうか。ネット時代になって歴史を都合の良いように修正するのはまえよりも少し難しくなっているでしょう。読むほうも単純に受け入れるばかりではありません。
 

Idemitsu02   なお、美術館本体では、中国福建省の陶磁の展覧会をしていました。受付で東京の出光美術館との収蔵品との関係を聞いたところ、収蔵品は東京にあって、そのコレクションを展覧会ごとにこちらに持ってくるということでした。滞在時間が限られていたので、東京でも見る機会がある美術品よりも、門司ならではの展示と考えて併設されている史料館を時間をかけて拝見しました。

 

(2011/6/3 訪問、2011/6/10 執筆)

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