無料で入館した途端に誇らしげな募金箱である。博物館を維持するのは金がかかるのである。それならば価値が理解してもらえる人には堂々と寄付を募ろうという態度が心地よい。隠すことはない。それだけ重要なことを扱い成果も出しているという気概である。
予算の不足を文科省だとか文化庁だとかのせいだと批評するばかりでは尻すぼみである。自主財源の努力をするのも博物館運営の工夫の中の必須項目ではないかと思うが、案外世間体を気にしてか、”金”の話をしたらアカデミックではないと思っているのか、ここまでどんと鎮座した募金箱には出会わない。
北大は、札幌農学校の系譜に連なる農学部に始まり、医学部、工学部、理学部、と理系学部の開設がリードした大学である。
1929年(昭和4年)竣工の理学部本館は、構内に現存する最も古い鉄筋コンクリート造の建物である。いわば北大の顔である。それを総合博物館に転用する構想のもとに2001年(平成13年)に第1期工事が行われ公開展示が開始された。大学博物館に対する並々ならぬ思い入れを感じるではないか。
入り口から順路に沿って進むとまずは北大の成立と発展に関する歴史的な展示である。Boys, be ambitious.と叫んだクラーク博士の薫陶を受け、のちに東大総長・矢内原忠雄が評価した教育の一大潮流である。
「明治の初年において、日本の大学教育に二つの大きな中心があって、一つは東京大学で、一つは札幌農学校でありました。この二つの学校が日本の教育における国家主義と民主主義という二大思想の源流を作ったものである。」
博物館がどういうものなのかに関する主張も明確である。
主張に見合うだけの研究をこの地で進めるためにはひとつひとつの現実がある。
最適の道具が必要だとも考えたのだろう。昆虫標本を入れる木箱まで、「北大式」という専用のものである。
専用ケースのデザインも必要になるだろう。確かに、蝶の学術標本だけでも何部屋も続くのである。
部屋で待ち構えていた大学院生は胸を張って説明を始めた。研究の歴史を自慢できる学生を見るのは心地よい。
次の部屋では、研究テーマに関するアンケート調査への協力を訴えられる。思いつめた顔で頼まれるとなかなか断れる人はいない。何枚も続くSD法のアンケート用紙を見て、しまったと思ったがしかたがない。この質問の設計は調査の意図をしっかり反映できているのかなあ、などと背景を想像しながらも最後まで答える。自然史系の展示スペースをストレートに学生の実習の場にしている場面は初めての体験だった
建前と実行にズレはない。
(2011/8/9 見学、2011/9/7 執筆)