碁盤の目になっている街中に、東西3目・南北3目で9マス分の街区を丸ごと使った気前のいい植物園である。4,000種類以上の植物が育成・保存されているというが、自然淘汰をされぬように気を配って維持するのは並大抵のことではないだろう。
檻で独立性を担保する動物園と違って、”自然のような混栽状態”を人工的に整理整頓しないといけない。園中央の池も、都市化で既に泉は涸れ、地下水をくみ上げて水面を保っているということである。
ハルニレなどの広葉樹の林を一周して園内の博物館へ。明治15年に建てられた、童話に出てくるような年代物である。
たった一体だけ実物が残されたエゾオオカミ、ヒグマ、シカ類などから小型までの哺乳類の剥製がこれまた年代物の木枠ガラス張りのケースに収まっている。
十把一絡げに尻尾で結えられたネズミの束は、研究用に採集された状態のままなのだろうか。研究の主が突然消えてしまった後のように時間が止まっている。
ここでは、『南極物語』の樺太犬タロが剥製になって新しいお役目を続行している。観測隊のお役目を引退したあと、この園で余生を過ごして老衰で亡くなった。14歳7か月。
昭和基地で病死したジロは東京の科学博物館に。5歳。
時々特別展で再会することもあるようだが、関心を呼ぶ極地のトレンドは『南極』からたとえば『宇宙』に移ってしまい、タロとジロの話も全く知らない子供がほとんどだろう。
若くして世を去り東京で人気の栄枯盛衰の中にいるジロと、天命を全うしてのちも永遠の時間にいるタロと、別々の2つの極地はいかがなものだろうか。
(2011/8/9 見学、2011/9/6 執筆)