セミ博士の宝箱  『蝉学 -加藤正世の博物誌』 東京大学総合研究博物館

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職業は飛行操縦士・高校教師、趣味がセミ、という加藤博士の大型個人コレクションです。数ミリごとに輪切りにしたり、成長段階ごとに処理をして動画フィルムのように並べたり、とありとあらゆる工夫がされた宝箱(標本箱)がずらりと並びます。野外で観察・採集していた加藤氏の姿が浮かんできます。今にも奥から博士が捕虫網をなびかせてうれしそうに部屋に戻ってきそうです。

命を数日で燃焼しながら鳴いて逝くまで十年近く地中で過ごす蝉は、あたかもその最後の数日のために臥薪嘗胆しているかのように擬人化してしまいそうですが、その地中の生活もそのまま生なのだと思います。幼虫は、成虫という目的のための道具ではありません。

加藤博士は、地道なな研究を続け、同好の会と機関誌を作り、個人で博物館まで立ち上げ、研究の成果を大著にまとめ、そして博士号を授与されたのが還暦前。でも最後の”賞”が目的だったのではなく、ただ日々、好きなことに熱中したことが生だったのだと思います。憧れの人生です。

展示室中央には、博士が使っていたさまざまな道具が並べられていました。黒い顕微鏡の前面には誇らしそうに彫りこまれたOLYMPUSの白文字。これを作ったエンジニアもそれが作りたくて作ったのだろうなあと感じます。数十年後のマネーゲームが目的だったはずがありません。

http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2011kato.html