文具店・荒物屋・銭湯、そして縁側 江戸東京たてもの園(東京・小金井市)

06  実家は文房具店でした。小さいころは、売り物のノートをぺらぺらと眺めながらなんで本屋に生まれなかったのだろうとうらめしく思ったことがあります。しかし、おかげで売るほどあった白紙の紙に鉛筆で絵と文字を果てしなく書き込む習慣が身についたのでしょうからラッキーでした。

 

 店の向かいは荒物屋とお菓子屋、夕方になると近所の銭湯のおじさんの大声が聞こえてきました。今は、改装した雑貨屋を除いて全て取り壊されています。

  

    園の東ゾーンの奥に進んで道を曲がって目に入ってきた風景です。記憶にだけ残っている要素が詰め込まれていましたから私はけっこう標準的な昭和の町で暮らしていたのかもしれません。文具店は神田須田町の武居三省堂(昭和2年)、荒物屋は神田神保町の丸二商店(昭和初期)、銭湯は千住元町の子宝湯(昭和4年)、と実物が移築されています。

 

 

 

 

 

03   最近、江戸時代や昭和の街並みを実物大で再現した展示を全国の博物館で見てきましたが、やはりホンモノの風情とはかなり違っています。数十年たったらここの家々はそれなりに雨風で変化するでしょうがリアリティは変わらないでしょう。風呂上がりの楽しみだったフルーツ牛乳が置いてない、とか、一部の建物は”新築”で再現されているとか、街角の遊び場で子供がトライしている竹馬が金属パイプ製だったりと細かな点ではいろいろ注文したいところですが、それだけ既に懐かしい気持ちに包まれているということでしょう。

  

 

 

 

01  風呂上がりに縁側で夕涼みしていたころの肌感覚は、頭にデジタル化しては残されていないらしく定かではありませんでしたが、西ゾーン一番奥にある江戸時代後期の農家・吉野家の畳に寝転んでぼーっとしていると、畳の触感だとか匂いだとかが徐々に解釈されて体のまわり360度に感覚が再生していく感じがします。視覚聴覚以外の記憶があやふやなのは、現代ではその二感覚に偏った生活をしているからなのでしょう。再体験すれば刺激が刺激を呼んでアナログな記憶もよびさまされるにちがいありません。

 

 
(2011/6/26 鑑賞、2011/7/14 執筆)
 
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